家中あちこちに本棚を作っていて、そのほとんどが漫画、っていうくらいにはマンガ好き。
その僕がなんども読み返してしまう、お気に入りの作品を紹介します。
(ちょこちょこ足していく予定です。)
淡々と描かれる生活様式が最高な、日常モノ。
北北西に曇と往け / 入江 亜季
5巻まで刊行中
読み方は「ほくほくせいに くもと ゆけ」。アイスランドを駆ける17歳の探偵の日々。ジムニー、巨大な自然、ドライブ&キャンプっていうか野営、裸で泳ぐ美女・・・男子好みの要素完璧か。
犬探しの依頼で荒野の中ひたすら車を追いかけたり、美女から恋人探しを頼まれたり、さらっとアイスランド ↔️ 日本間を往復したり。寡黙で芯があって落ち着いているけどフットワークはとかく軽いっていう。身長も含め、僕にないもの全部持ってる感。憧れちまう・・・。若いだけに経験不足はあるけど、これまたかっこいいジイちゃんがいい相棒してくれて。
なんなのかな、この、ゆるく根を張りつつも風が吹くまま、といった軽やかな日々は。 あぁ、こんな生き方がしたい。
なお、裏表紙がえげつないくらいアウトドア好きを突いてきます。これまで馴染みのない国だったアイスランド、このマンガに激推しされて移住したくなってる。
乙嫁語り / 森 薫
12巻まで刊行中
厳しい土地・生活環境ながら、そのエピソードはほっこり。圧倒的な画力で綴られる、時間も空間も超えた壮大な日常モノ。
野生、天然、強い、でも乙女、でもお嬢様、姉さん女房、なんでも捌ける(鶏とか兎とか)と、作者の趣味を詰め込みまくったお嫁さんを中心に描く、コーカサス地方の風土記的物語。
人物もさることながら、街や市、雑貨、食べ物、動物、木々など、描写が最高に上手い。あまりに精緻な描写で、白黒なのに色がついて見えるレベル。文化や風土もめちゃくちゃ研究している(ていうか単に好きすぎて調べずにはいられないんだと思う)上にその描写力でもって描かれるわけで、ものすごい臨場感で読めます。料理美味しいね、刺繍ステキだね、っていうだけの話から、壮大な結婚式の様子や街vs遊牧民族の争いまで、いろんなスケールの話があり、全然飽きない。
シャーリー / 森 薫
2巻まで刊行中
便利さは足りないけど、のんびりさが羨ましい。18世紀の英国・ロンドン、女2人の豊かな毎日。
以降女2人の気ままな暮らしが始まるのだけど、この生活がまたグッとくる感じで。電気を引いてない部屋があったり風が吹いたら窓が閉まらなかったりと便利とは程遠いんだけど、“生活”ってこういうもんだよなぁ、と思ってしまう。現代の暮らしがそうでないってわけじゃないけど、健全というか、地に足がついてるというか。稼ぐことに追われていなくて、とにかく日々着実に健やかに1日を終えることを大事にしているのがすごく琴線に響くんですね。
変にドラマチックな展開にしないで、「掃除」だったり「お届けもの」だったりと毎回小さなテーマなのがいい。他の連載の隙間を縫って趣味的に描いていて、2巻が単行本にまとまったのは実に11年ぶり。次を早く読みたい気もするけど、待つのも楽しみだったり。細く長く穏やかに続いてほしい漫画です。
知識欲が刺激される蘊蓄(うんちく)マンガ
王様の仕立て屋 / 大河原 遁
全32巻
丁々発止なセリフの掛け合いが面白くてどんどん読める。他に類を見ない“スーツ”漫画です。これで得た知識は人生の財産になると思うよ。
落語にも造詣が深い作者だからかセリフのテンポが良く、職人の啖呵が小気味好く格好良く。登場人物みんながビシッと太い筋を持って生きていて、いっそ気後れしそうになるほどにいいエピソードの連続です。
タイトルをちょっと変えて続編続編と長く続いている漫画になっていてややマンネリ化も見られますが、シリーズ一作目はどこを切っても面白い名作。特にマフィアがらみの人生哲学なんかはぜひぜひ読んでほしい。
読むだけでオシャレになった気がして、革靴でも磨こうかという気持ちになります。
瑠璃と料理の王様と / きくち正太 11巻まで刊行中
商店街の名物定食屋を切り盛りするのは、現役女子大生の女将(おかみ)。彼女が繰り出す超弩級の料理が美味そうで美味そうで。
以降いろんなシチュエーションでの料理が1〜数話完結で続いていきます。初めはすっぽんラーメンだの懐石料理テイストな超ハイエンド朝食だのちょっと浮世離れした話でしたが、回を追うごとにナポリタン、オムライス、豚の角煮、鯖の味噌煮、と和食洋食どんどん庶民派に。
どれもこれも「普通の家庭料理よりちょっと凝ってる」くらいなのがポイント。このくらいならちょっとやってみっか!と挑戦したくなるような塩梅なのです。簡略レシピなんかも随所に載っています。
口上やキャラクターの台詞回しがリズミカルで、読んでて楽しい。それが鼻につく人にはとことん合わないだろうけど。絵柄もかなり人を選ぶだろうなぁという気はします。でも内容は超良いので、一度トライしてほしい作品です。
学生時代に帰りたくなる、青春・ギャグ・コメディー
グリーンヒル / 古谷 実
全3巻
「・・・人類最大にして最強の敵“めんどくさい”にうち勝ち・・・・立派な大人になりたいなぁ〜・・・」っていう最後の台詞に死ぬほど共感を覚える。こちとらもういい大人なんだけど・・・。
欲望と衝動で突き進む主人公と、変に自意識が邪魔してなかなか行動できないリーダー。両者が繰り出すハイテンションなトーク、ギャグはバカバカしく楽しく、しかしその根底には自意識過剰で陰鬱なドロドロの思考が垣間見えて。そういうバランスが妙に生々しくて、ギャグ漫画なのにリアルなんです。
社会人には味わい難い自由と疾走感。そして倦怠感と不安。青春時代ならではの振れ幅の大きさを思い出して、「あの頃に戻りてぇっ!」なんて身を捩る。そしてキレッキレのギャグで爆笑。いろんな方向に心をかき乱す、名作です。
ギャグとシリアスのバランスも最高だし、絵柄も整っていて、最近の作品にある暗い空気はかなり控えめ。個人的に古谷実さんの作品の中で一番好きですね。
それでも町は廻っている / 石黒 正数
全16巻
こんな街に住みたくなる。女子高生メイド探偵・嵐山歩鳥とご町内のみなさんが繰り広げる、日常コメディー+ミステリー。
基本一話完結・時系列シャッフルのショートエピソード集ながら、実は全ての話は矛盾のないように繋がっています。全16巻、約130話にわたる中でそれをやってのけた構成力に脱帽。何度読み返しても新しい発見があるのです。
作者が相当リスペクトしてるんでしょう、ちょっと毛色は違うものの「ドラえもん」的おもしろさの漫画です(実際、けっこうパロディも出てくる)。そして幼年期の謎な思い出や高校時代の変なこだわりや笑いのツボ、なんとなく「あるある」と思えるからすごい。よく覚えていて、描けるなー。
読んでると幸せな町の一員になれた気がして、ついついずーっと読んでしまう困った漫画です。
ミリタリー(バトル)フィクション
エリア51 / 久 正人
全15巻
アメリカ最高機密の51番目の州というシビれる舞台の上を、ウィットでハードボイルドな台詞が乱れ飛ぶ。訳ありの女探偵と助手が繰り広げる復讐の物語。
アマテラス、バンパイア、アーサー王、河童などなど、神々や妖精・伝説上の人物や童話の登場人物などが闊歩する街だけに、それぞれが持つ逸話や特徴が事件の原因や解決策といった“肝”になるわけだけど、その落とし込みかたに不思議な説得力があるので読後感が気持ちいい。概ね”依頼”ごとの1話完結のエピソードながら最終目標への道筋はしっかり繋がっていて、随所に散りばめられた伏線をきっちり回収していく全体の構成力も本当にすごい。
特筆したいのは、この密度の話が15巻に収まっているということ。だらだらと長期連載になりがちなこのご時世でこれは奇跡的じゃないか。
この漫画はここ数年で一番のおすすめです。もう何回読んでるか知らない。巻末にちょこちょこ入る短編とか、連載に至る経緯のショートストーリーとかもめちゃくちゃ面白くて、この作者ほんと漫画力高いな、と。
ノブナガン / 久 正人
全6巻
織田信長にニュートン、ナイチンゲール。世界の偉人たちの”遺伝子”と地球侵略生物との戦いの物語。とりあえずミリオタのヒロイン、しおちゃんが超かわいい。
おおまかにいうとこんなかなぁ。作者が特撮超好き(キュウレンジャーではキャラクター原案をも担当した)なこともあって、大枠はわりとベタな「地球を救う」ってストーリーです。
しかしながらその武器は「遺伝子」。かつて地球上に存在した傑物たちの遺伝子をもって造られた「AUウエポン」を纏い戦うのですが、主人公のミリオタ少女・小椋しおが纏うは織田信長。その智謀としおちゃんのミリオタぶりが相まって、意外な作戦・熱いバトルが押し寄せます。
悲しいエピソードも挟みつつ、着実に明るい未来を切り開いていく、良作です。「エリア51」同様に、綺麗に着地させる作者の構成力には舌を巻くしかない。
エリア88 / 新谷かおる
全13巻
ミリタリーという“リアルで泥臭いかっこよさ”を煮詰めた、戦闘機マンガの金字塔。
婚約者の元へ、日本へ帰るために、死に物狂いになり撃墜の報奨金を得るわけですが、日々死線を共にする中で次第に外人部隊の気のいい男たちとの仲を深めていく。寡黙で無骨だが陽気に振る舞う男たちのやりとり、そして女たちの強さと大胆さ、説得力のあるミリタリー描写がとにかく最高。特に戦闘より軍事の舞台裏的なところがね。“ティッシュペーパーから核弾頭まで”仕入れてくるマッコイ爺さんとか。食事模様とか。基地のリペアとか。
戦争真っ只中だから決してハッピーな話ではないんだけど、合間合間には出会えてよかった人や、楽しいと思える時もあるんだよなぁ、と。その対比に切なくなります。
異世界・ファンタジー。
純潔のマリア / 石川 雅之
全3巻+外伝1巻
血みどろの中世ヨーロッパ。戦争に次ぐ戦争の影で活躍(?)した魔女が手に入れたささやかな幸せとは。「もやしもん」の作者が描く戦争ヒューマンドラマ。
自分の幸せか人類の幸せかの天秤で揺れながらも、戦争を止めることを諦めきれないマリア。苦しみ怪我をし魔女狩りにも遭い、それでも悩み考えて最後、教義も戦争も時代の不幸も吹き飛ばすような包み込むような、そんな結論を手にします。それがだいぶ可愛くて可愛くて。
舞台は凄惨そのものの中世ヨーロッパだけど、そんな時代にも確かに幸せな時間はそこかしこにあったんだ、と。最後すごく幸せな気持ちになります。これはほんと読んで欲しいなぁ。
月華美刃 / 遠藤 達哉
全5巻
「かぐや姫」をモチーフにしたスペースフィクション。「和風スチームパンク」と言える風情の世界観・設定の作り込みがすごい。これはもっと評価されてもいいと思うんだが。
「かぐや姫(竹取物語)」の印象的な部分が上手くストーリーや登場人物に引用されている。登場人物やアイテムに馴染みのある言葉の響きが多いのもあってか、不思議に説得力のある世界観で、スッと入り込める。
テロ組織の名前が転宮党(てんぐうとう)で天狗の仮面をつけている(天狗は畏怖の対象)とか、ネーミングとミーニングと日本文化のすり合わせがめちゃくちゃ巧みだなぁと思います。武器や乗り物なんかのデザインも和のテイストが取り込まれていてスチームパンクのような独特のかっこよさ。
五大湖フルバースト / 西野 マルタ
全2巻
相撲よろしく勢いで押し切られている感もあるが、細かいこと抜きに面白い。漫画とはこれだ! 版画のような独特の絵柄が癖になる、近未来SF角界バトルストーリー。
近未来、アメリカの国技は“相撲”となっていた! 全米相撲の聖地・デトロイトで“技の横綱”と賞賛される力士・五大湖は、ロボット科学者ドクター・グラマラスの甘言に乗り、その肉体を機械へと改造されてしまう。全身を最新鋭の重火器で武装し、土俵で殺戮を続ける機獣と化した五大湖を斃(たお)すため、石像となり眠っていた“角界の守護神”伝説の横綱が……甦る!!あらすじを書く側からしても、正気でそんな漫画が存在するとは思えない怪作にして大傑作。異論は認める![特別寄稿/ヤスダスズヒト(漫画家)]
栄枯盛衰の常、頂点ゆえの苦悩、認められたい父と子。思いは様々なれど、最後はぶつかり合うしかねぇんだなって。
設定に度肝を抜かれ、ネーミングにクスッとし、悲しいエピソードに涙し、やりきれなくて憤り、熱い勝負に思わず手に汗握り・・・。わずか2巻の怒涛の展開を突っ走り、最後には「そうだったのか!」という完璧な風呂敷畳みで読後感爽快この上なし。
登場する相撲取りの四股名とか、とにかくあらゆるセンスが神懸かってる最高の作品です。講談社コミックプラスで試し読みできるので、ぜひ読んでほしい。
熱く滾る歴史ロマン
シュトヘル / 伊藤 悠
全14巻
武から、文へ。そのはしりとなった時代に立会い、文字の力を信じて文字を護った人々がいた。
それまでは口伝のみ、勝者の言葉でしか語られなかった時代の記録・歴史が、文字によりあらゆる人々のものになる。文字という“記録媒体”がもたらした衝撃がどれほどのものだったか。そしてそれが当たり前になった現代がどれほど恵まれているのか。普段何気なく使う文字に思いを馳せてしまいます。
文字(=文)の力に注目する作品ですが、ストーリーの要所要所を決めるのはそれまでの力、「武」です。つまり、バトルシーンもかなりかっこいい。圧倒的な武力に、滾る。それもまたいいよね。
天竺熱風録 / 伊藤 勢
全5巻
7万超の天竺軍を、8千のチベット・ネパール連合軍が打ち破る。連合軍を率いたのは、なんと中国・唐の文官(武官=軍人ではない!)。この驚くべき史実を描く、タイトルどおりの熱い戦記モノです。
あとがきにある著者の歴史考察や取材後記的なものを読むに、相当にこの題材を掘り下げて研究している感じなんだけど、漫画本体はわりとライトなノリ。とにかく「分かりやすく面白く」を念頭にあくまで「娯楽作品」として仕上げてきていて、逆の意味でハイレベルです。すごい。最新4巻ではついに開戦するわけだけど、軍の布陣や個人の戦闘なんかもけっこうファンタジーな感じで、やはり「楽しく読ませよう」というのが伝わってきます。
個人的な見所は建物や街や王宮の室礼とか、戦犀(サイ)や戦象(ゾウ)・鎧・武器といった軍関連の装備品の装飾とか。非常に納得のいくディティールで描かれていて、それらを眺めるだけでも超ワクワクするのです。
トイレのお供にしたい系
腐女子のつづ井さん / つづ井
全3巻
思いつきのままに行動する腐女子たち。楽しいことに一直線すぎていっそ清々しい。
生理ちゃん / 小山 健
全2巻
ふざけた絵と手を伸ばしづらいテーマで敬遠するなかれ。かなり読ませる、いい漫画ですよ。
お互いがんばってるよね!って励ましてくれるような。なかなかイイ話が多いんです。トイレに置いときたいかも。
オススメをまとめてみて思ったけど、
「伏線回収・着地の巧さ」
「生活様式・キャラクターの毎日が垣間見える」
「女の子が強い(芯がある)」
ってのが僕の好みのようです。
あと、あんまダラッダラ続くのは好きじゃない。
「まだもっと読みたかった・・・!」ってくらいでスッキリまとめて終えてくれる漫画がいいですね。(そういった意味では「キングダム」とかちょっと残念です・・・)
そんなわけでおすすめマンガでした。
本で買ってるものは本で統一したいし、なんだかんだでまだ完全には電子書籍に移行できない。
これからも本棚を作ってはそこに並べていくことになるのでしょう・・・。